はじめに

 私どもAV人権倫理機構(以下、当機構)は、アダルトビデオ(AV)出演強要問題に端を発し、AV業界の諸問題がクローズアップされたことを受け、2017年4月1日より「AV業界改革推進有識者委員会」として発足し、業界の改善、健全化を推進する第三者的な組織として活動を開始しました。そして同年10月1日に「AV人権倫理機構」として再組成をして、業界の改善に向けた更なる取組みを行ってまいりました。
 当機構に加盟する団体もNPO法人知的財産振興協会(IPPA)、一般社団法人日本プロダクション協会(JPG)、一般社団法人日本映像制作・販売倫理機構(制販倫)、第二プロダクション協会(SPA)、一般社団法人コンピュータソフトウェア倫理機構(ソフ倫)-加盟順-が加盟し、メーカー、プロダクション合わせて400社を超える(2021年11月30日現在)大きな枠組みの組織となっております。
 本報告は、これまで複数回にわたり報道機関向けに報告してきたことをまとめ、多くの方々にご理解をいただくために作成いたしました。昨年3月に行われた第5回報道機関向け活動報告会において報道機関各社にお渡しした資料をもとに構成されています。

これまでの活動

 当機構は、有識者委員会での提言及び規則にある「出演者の人権に適正に配慮した映像作品が『適正AV』である」という考え方を具現化するために、表現内容以外の「作品制作から販売に至るまで」の適正化を業界に求め、その中で様々な改善策を提案し、業界の協力を得て適正化を推進してまいりました。
 ここにこれまでの4年半にわたる活動の報告を行うとともに、2018年2月に開始しました作品販売等停止申請の現在までの報告を行います。
 具体的な活動としましては、契約書の共通化、女優本人が再検討する期間の明確化、第三者による意思確認と、その際の重要事項説明の制度化、面接、契約、撮影時などにおける現場録画での可視化、金銭面の女優への開示、二次利用報酬の支払、作品使用期間の取決め、ホットラインの開設、プロダクション・メーカールールの整備、作品販売等停止申請の窓口設置及び権利者への通知などがあり、これらの施策の実施状況の確認と施策上の問題点を話し合うワーキンググループの会合も定期的に開催しています。また、各種取り組みを共有している公的機関に対しても当機構の活動報告を行うとともに、それら機関からのアドバイスをいただきながら、メーカー・プロダクションの業界外からの窓口として、活動を行っています。

2021年11月吉日
AV人権倫理機構

AV業界改革推進有識者委員会からAV人権倫理機構へ

これまでの活動

①提言及び守るべき規則の制定(2017年4月~)
・AV業界改革推進有識者委員会が発足して最初に策定したのが、AV業界全体に向けた「提言」及び「守るべき規則」です。適正AV(プロダクション、メーカーが出演者の人権に適正に配慮された業務工程を経て制作され、正規の審査団体の厳格な審査を経て認証され製品化された映像)という新しい概念もここで発表しました。当機構の根幹をなすものとして、委員会改組後もAV人権倫理機構に引き継がれています。
②業界外部への広報活動(2017年4月~)
・各種取り組みを共有している公的機関に対して、当機構の活動報告を定期的に行うとともに、それら機関からアドバイスをもらいながら、メーカー・プロダクションにとってのAV業界外からの窓口としての活動を行っています。半期ごとの活動報告書は各所に配布され、また当機構HPにおいては、各種発信をその都度及び作品販売等停止申請の進捗状況を毎月発表しています。
③業界アンケートの実施(2017年7月~)
・これまで把握できなかったAV業界におけるプロダクション、メーカーの基礎データ収集を目的としたアンケートを2017年より実施し、関係各所への報告を行っております。2019年からは女優向けのアンケートも実施しています。
④作品販売等停止申請の設置(2018年2月~)
・元女優が出演作品の流通停止を申請できる受付窓口「作品販売等停止申請」を作りました。本人確認・権利者特定作業及び権利者への通知などを行い、一定の成果を挙げています。なお、申請数等の数値は毎月HPにて公表しています。
⑤意思確認と重要事項の説明(2018年4月~)
・女優のプロダクション登録時における、第三者によるAV女優業に臨む「意思の確認」、AV作品に出演する際の「重要事項の説明」の制度化を図りました。意思確認と重要事項の各書面(及びマネジメント契約書の写し)はプロダクション団体を通じて当機構外局団体であるAVAN(アヴァン)に送られ厳重に保管をしています。
⑥共通契約書の使用(2018年4月~)
・メーカー・プロダクション間、プロダクション・女優間、女優・メーカー間の共通契約書の使用を2018年4月1日から義務付けています。作品使用期間の取決め(最長5年6ヶ月、以降女優から申請があれば即座に使用停止)、二次利用報酬の発生、出演を取りやめた女優への違約金請求の禁止などを定めました。また、社会からの要請に合致したものにするために、常に見直しを図りながら、よりよい契約書にするために、細かな修正の作業を続けています。
⑦業界ルールの策定(2018年4月~)
・コンプライアンスプログラム整備の一環として、メーカールール/プロダクションルールの策定を行いました。説明時における可視化(録画)、年齢確認の徹底、顔バレなどのリスク説明、出演の再検討期間の設定、性感染症検査・予防、無審査・無修正作品の禁止、その他、細部にわたるルールを規定いたしました。
⑧現場の可視化(2018年4月~)
・面接、契約、撮影時などにおける現場録画での可視化の義務化を行いました。女優に対するいかなる圧力もない状況下にて女優の自己決定権を担保する制度であり、各所で可視化を実施しています。
⑨性感染症対策(2018年4月~)
・AV業界内での性感染症蔓延の防止、出演者への安全配慮として性感染症予防のための厳格なルール順守が義務化されました。また、現在、医学の専門家チームにより、更に掘り下げた業界としての統一ルールの策定も進めています。
⑩出演料総額開示の義務化(2018年4月~)
・出演料やプロダクションフィーなど、プロダクションから女優への金銭に関する説明が義務付けられました。これによって女優にとって、自分の取り分の比率が明確になり、女優が金銭的に搾取されることを防ぎます。また、2019年3月1日からは、メーカーが支払う出演料の総額を女優・メーカー間の契約書に記載し、女優本人へ報告することが義務付けられました。
⑪相談ホットライン開設(2018年4月~)
・女優向け緊急時通報窓口「ホットライン」をAVANに設置しました。時間の限定はありますが、常設のものとして緊急時の対応や女優からの相談を受付け、一定の役割を果たしています。
⑫ワーキンググループ創設(2018年9月~)
・諸施策の実施状況の確認と施策上の問題点を話し合うワーキンググループ会合を実施し、メーカー団体、プロダクション団体の代表が集まった横断的な組織であり、活発な意見交換の場を設けています。
⑬フリー女優向け制度(2018年10月~)
・プロダクションの登録女優をベースに各契約書やルールなどを設定してきましたが、プロダクションに所属しないで活動する「フリーの女優」をメーカーが起用する場合の、契約書やルールなどの制度を整備しました。
⑭二次利用報酬の支払(2018年12月~)
・新たなオムニバス作品(総集編)などの制作時において、出演女優への二次利用報酬を支払う制度を新たに作りました。二次利用報酬の支払対象作品は2018年1月審査申込分からのオムニバス作品となり、半期ごとに集計され、同年12月よりAVANから対象の女優に二次利用報酬の支払いが順調に始まったと報告を受けています。
⑮AVANの外局化(2019年4月~)
・女優のための組織として位置付けたAVANを、AV業界において広く理解を得られる団体として活動していくことを目的に、2019年4月より当機構の外局団体と致しました。運営などは当機構事務局からは独立した団体です。当機構グループ団体として女優意思確認書などの保管、女優への二次利用報酬の支払、相談HOTLINE(常設)の開設・運営などの活動に取り組んでおります。

これらの施策以外にも各団体による自主的な取り組みがあり、業界の健全化を進めるためのたゆまぬ努力を関連団体とともに幅広く実行しています。今後におきましても、各種の提案を行い、それらを実行に移し、社会に向けて発信を続けるという活動を継続してまいります。

作品等販売停止申請について

<本施策の趣旨及びスキーム>

 AV出演強要問題が社会問題としてマスコミに取り上げられ、AV業界の見直しを迫られてきた中、4年前に発足したAV業界改革推進有識者委員会及びその後継のAV人権倫理機構では、様々な取り組みを行ってまいりました。
 その中で、「出演強要」と言われる事案の多くに、自分が過去に出演した作品の映示をやめて欲しいというものが混在しているのではないかとの推論を立てました。インターネットで検索をすればすぐに過去の出演映像が出てきてしまう、女優名が出てきてしまう、でも契約上消すことができない、そんな状況下で唯一「出演を強要された」「意に反して出演させられた」と言うことで作品が削除される、そのように考えました。
 時が経ち、自分の人生も新たなステージに入り、就職、結婚、出産などを機に、過去を消したいとの欲求は強くなり、もし簡易な方法で出演作が取り下げることができれば、巷間言われている「出演強要」はなくなる、もしくは激減するのではないかと考え、2018年2月20日に施策をスタートさせ作品等販売停止申請の受付けを始めました。

<これまでの実績(毎月末にホームページ上で発表したもの>

作品販売等停止申請の統計結果について

 2018年2月20日からスタートしました作品販売等停止申請につきまして、3年半にわたる本年11月末までのデータを取りまとめました。当初の推測では、出演強要と言われている多くの部分については、出演作品の販売停止(以下、取り下げ)が主な理由であり、取り下げ実現のための方策の一つが、強要があったと訴えることであると考えました。そこで、取り下げが可能になっているということを広めることで、簡易に申請ができ、当機構に取り下げ申請が届き、それらを解決することで、本当に深刻な問題、出演強要問題や人権侵害が明るみに出るとの推論です。この3年半の間で681件の申請があり、中間報告としてまとめ上げることで、推論が正しかったかの検証となり、正しいとすればより深刻な諸問題の根を探る根拠になると考えます。

集計方法

これまで届いた681件(1か月平均15.1件)について集計した。

  • ①母数-681件(申請件数)
  • ②申請作品数 30,888作品(申請ベース)
  • ③適用期間は 2018年2月20日から2021年11月30日まで

集計結果

Ⅰ申請ベース

  • ①作品数 30,888作品 (1件あたり1~1,204作品)
    平均 1件(申請あたり) 45.4作品
    ②申請者 女性 666件  男性  15件
    (本人582件、弁護士39件、人権団体28件、プロダクション26件、その他6件)
    ③取下げ申請理由:全681件中(総数2,221チェック 同一申請者にて複数チェック可)
    親、親類、友人などへの顔バレの為 547チェック(24.6%)
    婚約、結婚の為 394チェック(17.7%)
    社会からのバッシングへの不安の為 408チェック(18.4%)
    就職、転職の為 274チェック(12.3%)
    学生生活への支障の為 47チェック( 2.1%)
    販売から長期経過 335チェック(15.1%)
    その他 216チェック( 9.7%)

    (内、強要、意に反した出演16チェック)

    ④本人確認書類:直近100件の申請につき集計
    ・免許証 66件 ・パスポート 22件 ・住基カード 1件
    ・マイナンバーカード 9件 ・保険証 1件 ・在留カード 2件
    ・障害者手帳 2件 ・住民票 1件 ・弁護士確認 2件 (重複あり)

    ※なお、作品販売等停止申請における確認書類の種類は、上記の様に幅広く受け付けておりますが、『作品制作時における出演者の年齢確認書類』については、2021年7月より、運転免許証、パスポート、マイナンバーカードの3点となり、その他は確認の為の補助資料というルールが実施されております。

Ⅱ手続終了ベース(最終判断まで至ったケース649件、作品数27,094作品)

  • ①最終判断の内訳
    停止/名前削除/合意書 519件
    販売継続 51件
    枠外作品 27件
    対処不能 52件
    (合計649件)
  • ②権利者メーカーの判断結果(終了した649件 全27,094作品の内訳)
    停止/名前削除/合意書 21,982本 81.1%
    販売継続 3,655本 13.5%
    枠外作品 1,457本 5.4%
    (合計 27,094本) (合計 100%)

AV出演強要事件とは結局何だったのか

理事 河合幹雄

 私は、起点になったいわゆる出演強要事件とは何であったか、ある程度のところまで把握できたと考えているので、まとめておきたい。
 2016年ぐらいから、延べ人数とはいえ三桁に昇る女優あるいは親が、人権団体に駆込んだ。2017年に有識者委員会が立ち上がった時点で、主なメーカー、プロダクションなどから聞いたところでは、「強要」と言えるような酷い事件は、多くても2%か3%で、80年代はともかく、最近の現場は大丈夫なはずだということであった。元女優さんからの聞き取りで、すぐに判明したのは、過去に出演した作品が、意に反して延々と配信され続けていて、自分の現在の活動に支障をきたすので配信停止してほしいとのことであった。全てを消すのではなく、容易に人の目に触れない、つまり検索できなくしてくれればよいという要望であった。確かに、契約書には、永遠に配信できると書かれており、これを止めるには、出演強要されたとでも主張する他ない。実は、配信停止希望者が出演強要と言っているのではないかと推察した。そこで、2018年2月に配信停止制度を創設した。予想通り大いに活用され、配信停止作品はたちまち1万を超え、女優数でみても300人以上に達している(2021年11月末時点676人)。これは、これで大きな意義があったと認識しているが、この制度にはもう一つ狙いがあった。それは出演強要された女優は、間違いなく配信停止を望むはずであるので、そのようなケースがあれば把握できると考えていた。結果は、ずっと1件も発見できなかったのであるが、2019年に、ついに、非常にヒントになる事件に遭遇した。事件の詳細は語れないが、結果として現在、強要問題とは、何が起こっていたか次のように理解するに至っている。
 出演強要と呼ばれるものが、女優さんが断りきれずしぶしぶ出演させられたことだとすれば、それで売れる作品に仕上がることはむずかしい。わかってみれば、あたりまえのことが確認できた。女優にやる気がなければ、撮影途中で、これでは撮影継続無理となる場合、撮影はとにかく終えたが編集して審査にかけるのを断念、発売し始めたが売れないので販売終了といったことが考えられる。実際、アンケートによれば、一定数、撮影中止もあるし、商品化したが発売断念もある。私は、当初「出演強要」の定義として、「意に反して出演させられ、作品が販売され続けている」と捉えていたので、その場合は配信停止申請が来ると思っていたというわけである。そんな特別なケースは、1件のみであった。
 たとえ途中で撮影が中止されても、意に反する場合は、当然、人権侵害ではあるが、売られなければ重みは違う。売られないで知られていなければ、どこにも訴え出ないことが予想され、この人たちは人権団体に救いを求めた人たちではないと推察する。人権団体に駆込んだのは、配信によって娘が出演しているのを知った親が含まれることも、実はわかってきている。本機構の配信停止申請をしてきたが、本人確認のところで手続きが止まってしまっているケースは、これにあたるとの感触である。
 配信停止申請制度の実績と、アンケート調査の結果から、マスコミに丁寧に説明した結果、2020年5月18日、NHKの「おはよう日本」では、私の解釈に納得していただき、出演強要は実は極めて少なかったと報道していただいた。今後も、業界の健全化に勤しんでいきたい。

(2020年第3期AV人権倫理機構活動報告書掲載文章より抜粋)